歯医者で作るマウスガードとは?|市販品との違い・費用・競技別選び方を専門家が解説
「子どもが部活でラグビーを始めたけど、マウスガードはどれを選べばいいの?」
「市販の安いもので十分?それとも歯医者さんで作るべき?」
「本気で競技をしているから、パフォーマンスが落ちるのは絶対に嫌だ」
スポーツを楽しむすべてのアスリートや、そのご家族にとって、マウスガード選びは安全性とパフォーマンスに直結する重要なテーマです。しかし、市販品と歯科医院で作るカスタムメイド品の違いや、費用、自分に合った選び方など、わからないことも多いのではないでしょうか。
この記事では、スポーツマウスガード「VIA」を開発する私たち専門家チームが、歯科医学の知見と数々のアスリートをサポートしてきた経験に基づき、以下の点を解説します。
- 市販品と歯科医院製の決定的な違いと、潜むリスク
- 製作にかかる費用相場と、知っておきたい助成金制度
- ラグビー、格闘技から子供用まで、目的別の最適な選び方
- 歯科医院での製作プロセスと、長く使うためのメンテナンス方法
この記事を読めば、なぜ歯科医師がカスタムメイドのマウスガードを強く推奨するのか、その科学的根拠と具体的なメリットがすべてわかります。あなたやあなたの大切な家族を、深刻な口腔外傷から守り、最高のパフォーマンスを引き出すための「究極のギア」を見つける一助となれば幸いです。

まずは、あなたに最適なマウスガードを見つける第一歩として、お近くの専門家にご相談ください。
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目次
マウスガードの基本効果|歯医者が推奨する理由
スポーツマウスガード(スポーツ用マウスピースとも呼ばれます)は、単なる防具ではなく、あなたの大切な歯や口の中を守るための「医療装置」です。その主な目的は、スポーツ中に起こりうる衝撃から口腔内を保護することにあります。
まずは、なぜ多くの歯科医師や専門家がスポーツマウスガードの装着を強く推奨するのか、その基本的な効果と理由を解説します。
口腔外傷の予防メカニズム
スポーツマウスガードが果たす最も重要な役割は、口腔外傷の予防です。プレー中の衝突や転倒によって顔に強い衝撃が加わった際、マウスガードはクッションのように機能し、そのエネルギーを吸収・分散させます。
具体的には、以下のような深刻な怪我のリスクを大幅に低減させることが科学的にも確立されています。
- 歯の破折・脱臼
歯が折れたり、抜けたりするのを防ぐ - 軟組織の裂傷
衝撃で自分の歯が唇や頬の内側、舌を傷つけるのを防ぐ - 顎の骨の骨折
歯全体を一体化させて衝撃を和らげることで、顎骨へのダメージを軽減する
人間の口腔内は驚くほど繊細です。
髪の毛一本が紛れ込むだけで、誰もがすぐに違和感を覚えるほど敏感。そんな場所に、フィット感のない市販のマウスガードを入れたらどうでしょう。分厚く、ズレやすく、噛み合わせも合わない……。その不快感は集中力を奪い、最高のパフォーマンスを発揮するどころか、かえって邪魔になってしまいます。
だからこそ、あなたには カスタムメイドのマウスガード が必要です。歯型に合わせて一人ひとりの口腔にぴったり作られるそれは、まるで「自分の一部」のように自然にフィット。違和感を感じさせず、競技やトレーニングに全神経を注げる環境をつくり出します。
自分の力を余すことなく発揮したいなら、市販の妥協品ではなく、プロが仕立てたカスタムメイド一択です。その一枚が、あなたの集中力を守り、勝負の結果を変えるのです。
顎関節保護と脳震盪リスクへの見解
マウスガードは、下顎に加わった衝撃が直接顎関節(がくかんせつ)や頭蓋骨に伝わるのを和らげる効果も期待されます。
一方で、「マウスガードが脳震盪(のうしんとう)を防ぐ」という点については、米国歯科医師会(ADA)などの専門機関も指摘するように、その予防効果を裏付ける一貫した科学的根拠は不足している、というのが専門家の一致した見解です。しかし、脳震盪を引き起こすほどの強い衝撃は、同時に深刻な口腔外傷を引き起こす可能性が極めて高いです。
そのため、脳震盪予防を主目的にするのではなく、あくまで口腔外傷を確実に予防するという観点から、マウスガードの装着はすべてのコンタクトスポーツにおいて強く推奨されます。

パフォーマンスへの影響は?
「マウスガードをすると力が出る」という話を聞いたことがあるかもしれません。実際に、適切に調整されたカスタムメイドのマウスガードを装着することで噛み合わせが安定し、体幹の安定や筋力の発揮が向上する可能性がある、という研究報告も存在します。
しかし、その効果の大きさや再現性には個人差があり、まだ研究途上の段階です。現時点では、パフォーマンス向上は副次的な可能性と捉え、第一の目的はあくまで「外傷の予防」にあると理解することが重要です。適切なマウスガードは、怪我への不安をなくし、プレーへの集中力を高めることで、結果的にアスリートが持つ本来の力を最大限に引き出す手助けをしてくれるのです。
【この章のまとめ】
スポーツマウスガードは、衝撃を吸収・分散させることで歯の破折や口内の裂傷など、深刻な外傷を予防する医療装置です。顎関節を保護する効果も期待できますが、パフォーマンス向上は副次的なものと捉えましょう。次の章では、なぜ市販品ではなく歯科医院での製作が推奨されるのか、その決定的な違いを解説します。
歯科医院製と市販マウスガードの決定的違い
マウスガードには、スポーツ用品店などで手軽に購入できる「市販品」と、歯科医院で歯型を採って作る「カスタムメイド品」があります。
価格の手頃さから市販品を選びたくなるかもしれませんが、歯科専門家の視点から見ると、両者には安全性と機能性において、単なる品質差では済まされない決定的な違いが存在します。
なぜ危険?市販品(ボイル&バイト)の限界
市販品で最も一般的なのが、お湯で温めて柔らかくし、自分で噛んで形を作る「ボイル&バイト」タイプです。手軽さが魅力ですが、多くの専門家はその使用に警鐘を鳴らしています。なぜなら、以下のような深刻なリスクが潜んでいるからです。

- 不十分な保護能力
自己流の成形では、噛みしめる力のムラによって厚みが不均一になりがちです。最も保護が必要な前歯部分が薄くなってしまい、いざという時に十分な衝撃吸収効果を発揮できないケースが少なくありません。 - 顎関節への悪影響
適切でない噛み合わせのまま固まってしまうと、顎関節に不自然な負担がかかり続け、顎の痛みや顎関節症(がくかんせつしょう)を引き起こす原因にもなり得ます。 - パフォーマンスの低下
適合性が低いため、プレー中にずれたり外れたりしやすく、呼吸や会話を妨げます。これが集中力の低下を招き、最高のパフォーマンスを発揮する妨げとなります。
歯科医院で作るカスタムメイド品の5大メリット
一方で、歯科医院で製作するカスタムメイドのマウスガードは、歯科医師と歯科技工士という専門家が連携して作るオーダーメイドの医療装置です。米国小児歯科学会(AAPD)もその有効性を高く評価しており、市販品にはない、以下のような圧倒的なメリットがあります。

- 最高の保護性
能衝撃を受けやすい部分に必要な厚みを確保し、歯列全体を均一に保護する理想的な設計が可能です。 - 完璧なフィット感
精密な歯型から作られるため、口の中に吸い付くようにフィットします。激しい動きでもずれにくく、プレーに集中できます。 - 快適な装着感(呼吸・会話のしやすさ)
違和感が少なく、呼吸や会話をほとんど妨げないため、チームメイトとのコミュニケーションもスムーズです。 - 優れた耐久性
優れた耐久性高品質な専用材料と精密な製作工程により、市販品よりも丈夫で長持ちします。高品質な専用材料と精密な製作工程により、市販品よりも丈夫で長持ちします。 - パフォーマンスの維持・向上適切な噛み合わせを付与することで、アスリートが本来持つ力を最大限に引き出す手助けをします。
市販品とカスタムメイド品の違いは、既製服とオーダーメイドスーツの違いに例えられます。あなたのアスリートとして、あるいは大切なご家族の安全を守るために、どちらが最適かは明白です。
【この章のまとめ】
市販のマウスガードは手軽ですが、保護能力が不十分な上、顎関節を痛めるリスクさえあります。一方、歯科医院で作るカスタムメイド品は、安全性・快適性・機能性の全てで市販品を圧倒します。その価値を理解した上で、次の費用についての解説をご覧ください。
マウスガード製作の費用|歯医者での相場と助成金
「歯医者で作るマウスガードは、やっぱり高いのでは?」と心配される方も多いでしょう。ここでは、カスタムメイドマウスガードの費用相場や製作期間、そして知っておくと役立つ補助金制度について、具体的にお伝えします。
初期費用はかかりますが、これは万が一の怪我で必要となる高額な治療費を未然に防ぐための「賢い投資」と考えることができます。
費用相場と製作期間の目安
歯科医院でスポーツマウスガードを製作する場合、費用は原則として保険適用外*の自由診療となります。料金は歯科医院やマウスガードの仕様(単層か多層か、デザインなど)によって異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
- 費用相場
15,000円~50,000円程度 - 製作期間
約1週間~2週間 - 通院回数
歯型採りと完成品の試着・調整で、計2回が目安
費用は、使用する素材の枚数(多層構造など)やデザインの有無、地域によっても変動します。
一見すると高額に感じるかもしれませんが、例えばスポーツで前歯を1本折ってしまった場合、インプラントなどの治療には数十万円かかることもあります。そう考えると、カスタムメイドマウスガードは、将来の身体的・経済的負担を軽減するための非常に有効な予防策と言えるでしょう。
保険は適用される?
残念ながら、スポーツ時の外傷予防を目的としたマウスガードの作製は、原則として健康保険の適用外*です。
ただし、顎関節症の治療の一環として製作される「スプリント」と呼ばれるマウスピース(ナイトガードなど)は、保険が適用される場合があります。
スポーツマウスガードとナイトガードは目的が全く異なる別物です。これらは混同しないように注意しましょう。
*ただし、18歳以下で、歯の外傷後に外傷を受けた歯の保護を目的とする場合は保険が適用されます。(受傷日より1年以内)令和6年改訂
自治体の助成金・補助金制度を活用する
お住まいの地域によっては、子供のスポーツ中の安全確保を目的として、マウスガードの作製費用の一部を補助してくれる制度があります。これは非常に有益な制度なので、ぜひ一度確認してみてください。
例えば、以下のような自治体で補助金制度が実施されています。
- 大阪府東大阪市
市内在住の18歳以下の者及び18歳以下の日新高等学校の生徒を対象に、作製費用の半額(最大5,000円まで)を補助。 - 埼玉県熊谷市
市内在住・在学の学生を対象に、費用の2分の1(上限5,000円)を補助。 - 埼玉県深谷市
市内在住の18歳以下を対象に、費用の半額相当(上限5,000円)を地域通貨で付与。
以前、埼玉県熊谷市にお住まいの方からご相談を受けた際、この市の補助金制度をご案内しました。当初費用を心配されていましたが、制度の活用で自己負担が軽くなり、安心してVIA Youthをお子様のために製作できました。自治体の制度を知っているかで、選択肢は大きく変わります。

これらの制度は年度ごとに内容が変わる可能性があるため、まずはお住まいの市区町村のウェブサイトで [ マウスガード 補助金 ] などのキーワードで検索するか、スポーツ振興課や保健センターに問い合わせてみることをお勧めします。
※ 本稿の規定・費用・助成は 2025年9月2日 時点。最新は公式情報をご確認ください。
【この章のまとめ】
歯医者で作るマウスガードの費用は保険適用外で15,000円からが相場ですが、将来の治療費を考えれば有効な投資です。自治体によっては作製費用の補助制度も利用できる場合があります。費用を理解した上で、次はあなたのプレーに最適なマウスガードの選び方を見ていきましょう。
競技別|歯医者が考えるマウスガード最適設計
すべてのスポーツに同じマウスガードが最適、ということはありません。競技の特性、つまり「どのような衝撃が、どこから、どのくらいの頻度で加わるのか」によって、求められる保護性能や機能性は大きく異なります。歯科医院では、アスリート一人ひとりの競技に合わせた「最適解」を設計・提案します。
ラグビー・アメフト・格闘技(高コンタクト)
選手同士の激しい衝突が避けられないラグビー、アメリカンフットボール、ボクシング、空手といったコンタクトスポーツでは、最大限の衝撃吸収能力が最優先されます。

- 推奨される構造
衝撃を受けやすい前歯部を特に厚くした多層構造が推奨されます。硬さの異なるシートを重ねることで、衝撃を効果的に吸収・分散させます。 - 適切な厚み
前歯部で3mm~4mm以上の厚みを確保することが一つの基準となります。 - 設計のポイント
顎全体を安定させ、衝撃から守るために、奥歯(臼歯部)までしっかりと覆うフルカバータイプが基本です。
バスケットボール・サッカー(準コンタクト)
バスケットボールやサッカーのように、プレー中の衝突は偶発的であるものの、肘やボールが顔に当たるリスクが高い競技では、保護性能と快適性の両立が重要になります。

- 推奨される構造
単層または二層構造が一般的です。 - 適切な厚み
2mm~3mm程度が基準となります。厚すぎると呼吸や会話の妨げになり、パフォーマンスに影響するためです。 - 設計のポイント
プレー中にチームメイトと頻繁にコミュニケーションを取るため、発音を邪魔しないよう、上顎の内側(口蓋側)を薄く、あるいは浅く設計するなどの工夫がされます。
2024年シーズン前、ある大学バスケットボール部の選手から「試合中に声を出しやすいマウスガードが欲しい」と依頼がありました。そこで前歯の保護に必要な3mm厚を確保しつつ、口蓋側を極限まで薄く仕上げました。結果、「違和感がなく、指示の声がクリアに通る」と高い評価を得られました。
ウエイトトレーニング・陸上(非コンタクト)
ウエイトリフティングや陸上競技、クライミングなど、相手との接触がないスポーツでもマウスガードは有効です。これらの競技では、瞬間的に強い力を発揮する際に、無意識に歯を強く食いしばっています。

- 主な目的
強い食いしばりによる歯の摩耗や破損を防ぐこと。 - 設計のポイント
衝撃吸収性よりも、噛み合わせる面(咬合面)の保護と耐久性を重視します。競技の妨げにならないよう、軽量で会話がしやすいデザインが選ばれることもあります。
競技ルール(色・形状)の遵守
見落としがちですが、競技団体によってはマウスガードの色や形状に細かい規定が設けられている場合があります。ルール違反のマウスガードは、試合で使用できないばかりか、失格の対象となる可能性もあります。
色の規定例
- 赤色系が禁止
ボクシング(出血と見分けにくいため) - 透明・白色が禁止
アメリカンフットボール、女子ラクロス(審判が装着を視認しやすくするため) - 透明・白色に限定
高校野球、柔道、テコンドー
歯科医院でマウスガードを作る際は、必ずご自身の競技の最新ルールを歯科医師に伝え、規定に適合したものを製作してもらうようにしましょう。

【この章のまとめ】
マウスガードは、ラグビーのような高コンタクト競技では厚い多層構造、バスケなどでは快適性との両立、ウエイトトレーニングでは歯の保護と、競技別に最適な設計が異なります。また、競技ルール(特に色)の遵守も不可欠です。次は、特に配慮が必要な子供用マウスガードについて解説します。
子供用マウスガードを歯医者で作る際の注意点
成長期のお子様がスポーツをする際の安全確保は、保護者にとって最も気になるところでしょう。特に顎の骨や歯が発達段階にある子供のマウスガードは、大人とは異なる特別な配慮が必要です。
歯医者で適切なマウスガードを作ることは、目先の怪我を防ぐだけでなく、お子様の将来の健康な歯並びと噛み合わせを守るための大切な投資です。
成長期の顎と歯並びへの配慮
子供の口腔内は、大人が想像する以上にダイナミックに変化しています。乳歯が永久歯に生え変わり、顎の骨も日々成長しています。そのため、一度作ったマウスガードがすぐに合わなくなるのは当然のことです。
合わなくなったマウスガードを使い続けると、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 保護効果の低下
歯との間に隙間ができ、衝撃を適切に吸収できなくなる。 - 健全な成長の阻害
歯の正しい萌出(ほうしゅつ:歯が生えること)や、顎の自然な成長を妨げてしまう恐れがある。 - 不快感による装着拒否
違和感や痛みから、子どもがマウスガードを着けるのを嫌がるようになる。
だからこそ、歯科医院での定期的なチェックが不可欠なのです。
子供の交換・作り直しの頻度
では、どのくらいの頻度で作り直すべきなのでしょうか。日本小児歯科学会などの専門機関は、成長期の子供のマウスガードについて、3ヶ月〜半年に一度は歯科医院で適合状態を確認することを推奨しています。
昨年、中学1年生でラグビーを始めたお子さんのマウスガードを製作した際、保護者の方に「半年後の2025年夏には再チェックに来てください」とお伝えしました。乳歯と永久歯が混在するこの時期は、わずか数ヶ月で歯並びが変わり、適合が悪くなるためです。定期的な専門家のチェックがお子様の安全を守ります。
歯科医師が「作り直しが必要」と判断したタイミングで、新しいものに交換することが理想です。

矯正治療中でも作製は可能か?
「歯の矯正をしているから、マウスガードは作れないのでは?」と心配されるかもしれませんが、答えは「作製可能であり、むしろ強く推奨される」です。
矯正装置(ブラケットやワイヤー)が装着されていると、顔に衝撃を受けた際に装置が唇や頬の内側を傷つけ、大きな裂傷につながるリスクが高まります。矯正治療中のマウスガードは、歯を守るだけでなく、この口腔内軟組織の保護という点でも非常に重要なのです。
歯科医院では、矯正装置の形を考慮し、装置を傷つけず、かつ歯の移動を妨げないように、特別なクリアランス(隙間)を設けた専用のマウスガードを設計・製作します。矯正治療中のスポーツ活動については、必ずかかりつけの矯正歯科医と相談の上、適切なマウスガードを使用するようにしましょう。
【この章のまとめ】
成長期の子供のマウスガードは、顎や歯並びの変化に対応するため、3ヶ月〜半年に一度の歯科医院での定期チェックと、適切なタイミングでの作り直しが不可欠です。矯正治療中でも専用のマウスガードは作製可能で、むしろ安全のために強く推奨されます。
歯医者のマウスガードでパフォーマンスは向上する?
「良いマウスガードを着けると、パフォーマンスが上がる」という言葉は、多くのアスリートが一度は耳にしたことがあるかもしれません。この魅力的な効果は、果たして本当なのでしょうか。
ここでは、噛み合わせとパフォーマンスの関係について、科学的根拠と現場での実感の両面から解説します。
噛み合わせとパフォーマンスの科学的根拠
マウスガードがパフォーマンスに与える影響については、世界中で多くの研究が行われています。近年の複数の研究論文を統合的に分析したシステマティックレビューでは、適切に適合したカスタムメイドマウスガードの装着が、筋力やバランス能力といった運動パフォーマンスを向上させる可能性があると報告されています。
これは、マウスガードによって噛み合わせが安定することで、顎周りの筋肉がリラックスし、全身のバランスが整い、本来持つ力を効率的に発揮しやすくなるためと考えられています。
ただし、これらの研究結果にはばらつきがあり、米国小児歯科学会(AAPD)も指摘するように、すべてのアスリートに同じ効果が現れるとは限りません。そのため、現時点では「パフォーマンス向上は副次的な効果」と捉え、過度な期待はせず、あくまで外傷予防という主目的を忘れないことが大切です。
集中力を削がない「適合性」の重要性
では、なぜ多くのアスリートがカスタムメイド品を使うことで「パフォーマンスが上がった」と感じるのでしょうか。その最大の理由は、「適合性」の高さがもたらす集中力の維持にあります。
市販品のように、プレーのたびにずれたり、外れそうになったりするマウスガードは、無意識のうちにアスリートの集中力を奪っています。呼吸のしにくさや、会話のしづらさも同様です。
IFSCクライミングユースアジア選手権2025で2位に入賞したスポーツクライマーの大石覇選手も、私たちVIAのマウスガードを愛用しています。彼のようなトップアスリートにとって、コンマ数秒を争う場面での集中力は勝敗を分けます。ずれない、気にならないという「当たり前」の快適さが、極限のパフォーマンスを支える土台となるのです。
歯科医院で作るカスタムメイド品は、装着していることを忘れるほどのフィット感で、アスリートが目の前のプレーに100%没頭できる環境を作り出します。この「ストレスフリー」な状態と、「守られている」という心理的な安心感が、結果として最高の結果を引き出す重要な要素となるのです。

【この章のまとめ】
科学的には、カスタムメイドマウスガードによるパフォーマンス向上の可能性が示唆されていますが、効果には個人差があります。しかし、それ以上に重要なのは、完璧なフィット感がもたらす「集中力の維持」です。次は、その完璧なフィット感がいかにして作られるのか、製作プロセスを詳しく見ていきましょう。
歯科医院でのマウスガード製作プロセス
歯科医院で作るカスタムメイドマウスガードが、なぜ市販品と一線を画すのか。その答えは、歯科医師と歯科技工士が連携して行う、精密かつ専門的な製作プロセスにあります。
ここでは、あなたが歯科医院を訪れてから、世界に一つだけのマウスガードが完成するまでの流れを4つのステップでご紹介します。

STEP1:カウンセリングと口腔内診査
すべての始まりは、歯科医師との対話からです。
- カウンセリング
あなたがプレーするスポーツの種類、ポジション、競技レベル、過去の怪我の経験、そしてマウスガードに求めること(色やデザインの希望など)を詳しくヒアリングします。 - 口腔内診査
虫歯や歯周病がないか、噛み合わせの状態、顎関節に問題はないかなどをプロの目でチェックします。マウスガードを作る前に治療が必要な場合は、先にそちらを済ませることが推奨されます。
STEP2:精密な歯型採り(印象採得)
カスタムメイドの品質を左右する、最も重要な工程です。
- 印象採得
専用のトレーと精密印象材(粘土のようなもの)を使い、あなたの歯一本一本の形、歯並び、歯肉のラインまでを正確に型採りします。 - 咬合採得
競技中の姿勢や力の発揮の仕方を考慮しながら、最適な噛み合わせの位置を記録します。
この歯型を基に、あなたの口の中を石膏で忠実に再現した「作業模型」が作られます。
STEP3:専門家による設計と製作
ここからは、専門の技術を持つ歯科技工士の出番です。日本スポーツ歯科医学会が定めるガイドラインに基づき、精密な作業が進められます。
- 設計
歯科医師からの指示書(処方箋)と作業模型を基に、競技特性を考慮して、厚みや保護範囲、辺縁のラインなどをミリ単位で設計します。 - 製作
専用のシート材を加熱し、「加圧成形機」という機械を使って高い圧力で模型に圧接します。これにより、歯の微細な凹凸にまで材料がしっかりと適合し、吸い付くようなフィット感が生まれます。その後、余分な部分を丁寧に削り出し、滑らかに研磨して仕上げます。
STEP4:装着・咬合調整と指導
完成したマウスガードを受け取り、最終調整を行います。
- 試着と適合確認
実際に口の中に装着し、フィット感や維持力、違和感がないかを確認します。 - 咬合調整
噛み合わせに不自然な高さや引っ掛かりがないか、専用の紙を噛みながら細かくチェックし、必要であればその場で削って調整します。 - 使用指導
正しい着脱方法、日々の清掃や保管方法、定期検診の重要性などについて、専門家から詳しい説明を受けます。
この一連の専門的なプロセスこそが、あなただけの最高のパフォーマンスギアを生み出すのです。
【この章のまとめ】
歯科医院でのマウスガード製作は、カウンセリング、精密な歯型採り、専門家による設計・製作、そして最終調整という4つのステップで行われます。この丁寧な工程こそが、市販品にはない安全性とフィット感の源泉です。最後に、完成したマウスガードを長く使うための管理方法を学びましょう。
マウスガードの管理と長期的な注意点
歯科医院で最高のカスタムメイドマウスガードを手に入れても、その後の管理が不適切では性能が低下し、不衛生になる可能性があります。大切なギアの寿命を延ばし、常に最高の状態で使用するためには、日々の正しいメンテナンスと定期的な専門家のチェックが不可欠です。
歯科専門家が推奨する清掃・保管方法
マウスガードを清潔に保ち、変形させないための基本的なルールはシンプルです。米国歯科医師会(ADA)なども推奨する以下のポイントを毎日の習慣にしましょう。
- 使用後の清掃
使った直後に、必ず流水でしっかりと洗い流してください。汚れが気になる場合は、柔らかい歯ブラシで優しくこすり洗いをします。ただし、歯磨き粉は研磨剤で表面を傷つける可能性があるため、使用は避けましょう。 - 定期的な消毒
週に1〜2回、マウスガード専用の洗浄剤や義歯用洗浄剤に浸けて消毒すると、細菌の繁殖や臭いを効果的に抑えることができます。 - 正しい保管方法
洗浄後はしっかり乾燥させ、変形や破損を防ぐために通気性の良い専用ケースに入れて保管してください。 - 熱は絶対に避ける
マウスガードの素材は熱に弱いため、熱湯での洗浄、炎天下の車内への放置、乾燥機の使用は変形の原因となるため絶対にやめましょう。
交換時期のサインと歯科医院での定期検診
マウスガードは消耗品です。使用頻度や競技の激しさによって劣化のスピードは異なります。以下のようなサインが見られたら、交換を検討すべき時期です。
- 装着感が緩くなってきた、口を開けると外れやすくなった
- 亀裂や破れ、穴が開いている
- 噛みしめる部分がすり減って薄くなっている
- 変形してしまった
このような状態で使い続けると、本来の保護効果が得られないだけでなく、思わぬ怪我につながる危険性があります。
また、目に見える変化がなくても、成人アスリートで少なくとも年に一度は歯科医院で適合状態をチェックしてもらうことが推奨されます。歯科医師が専門家の目で適合性を確認し、必要であれば調整や再製作を提案してくれます。大切な体を守るため、定期的なメンテナンスを怠らないようにしましょう。
【この章のまとめ】
マウスガードの性能維持には、使用後の水洗いと適切な保管が不可欠です。熱湯や高温は変形の原因となるため絶対に避けましょう。装着感が緩くなったり破損したりした場合は交換のサインであり、少なくとも年に一度は歯科医院での定期的なチェックを受けることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1:歯医者で作るマウスガードと市販品では、何が違うのですか?
A. 最も大きな違いは「適合性(フィット感)」です。歯科医院で作るカスタムメイド品は、あなたの精密な歯型から作るため、口の中に吸い付くようにフィットし、プレー中にずれたり外れたりすることがほとんどありません。その結果、最高の保護性能を発揮し、呼吸や会話もスムーズに行えます。一方、市販品はフィット感が悪く、保護能力が不十分なだけでなく、顎関節に負担をかけるリスクもあります。
詳しくは「歯科医院製と市販マウスガードの決定的違い」の章をご覧ください。Q2:マウスガードを作りたいのですが、費用はいくらくらいかかりますか?保険は使えますか?
A. 歯科医院でのマウスガード製作は保険適用外の自由診療となり、費用相場は一般的に15,000円~50,000円程度です。費用は仕様によって異なります。スポーツ外傷予防目的のため健康保険は使えませんが、一部の自治体では子供を対象とした作製費用の補助金制度があります。
詳細は「マウスガード製作の費用|歯医者での相場と助成金」の章で解説しています。
Q3:子供がラグビーを始めたのですが、マウスガードはどのくらいの頻度で作り直すべきですか?
A. 成長期のお子様の口腔内は、歯の生え変わりや顎の成長で常に変化しています。そのため、大人よりも頻繁なチェックと作り直しが必要です。専門家は、少なくとも3ヶ月~半年に一度は歯科医院で適合状態を確認することを推奨しています。合わなくなったマウスガードは安全性を損なうため、歯科医師の指示に従って適切なタイミングで交換しましょう。
詳細は「子供用マウスガードを歯医者で作る際の注意点」の章で解説しています。
Q4:歯医者でのマウスガード製作は、何回くらい通院が必要ですか?
A. 一般的には、合計2回の通院で完成します。1回目はカウンセリングと歯型採り、2回目は完成したマウスガードの試着と噛み合わせの最終調整です。歯型を採ってから完成までには、通常1~2週間ほどの期間が必要です。
製作プロセスの詳細は「歯科医院でのマウスガード製作プロセス」でご確認いただけます。
Q5:マウスガードの正しい洗い方と保管方法を教えてください。
A. 使用後は必ず流水で洗い流してください。週に1~2回、専用の洗浄剤を使うとより衛生的です。洗浄後はしっかり乾燥させ、熱を避けて通気性の良い専用ケースで保管するのが基本です。熱湯消毒や車内放置は変形の原因になるため絶対に避けてください。
正しいメンテナンス方法は「マウスガードの管理と長期的な注意点」の章で詳しく解説しています。
Q6:ボクシングをしています。ルールに合ったマウスガードを歯科医院で作れますか?
A. はい、作製できます。歯科医院では、各競技のルールに準拠したマウスガードを製作することが可能です。例えば、日本ボクシングコミッションのルールでは赤色系のマウスガードが禁止されていますが、そうした規定を遵守した上で、ご希望の色やデザインで製作します。カウンセリングの際に、ご自身の競技ルールを歯科医師に正確にお伝えください。
競技ごとの設計については「競技別|歯医者が考えるマウスガード最適設計」で解説しています。
※ 本稿の規定・費用・助成は 2025年8月23日 時点。最新は公式情報をご確認ください。
執筆・監修・COI(利益相反)
執筆者
VIA開発チーム(株式会社成田デンタル)
「スポーツを、もっと安心に」をミッションに、歯科技工士、歯科医師が集結した専門家チーム。50年以上にわたり歯科医療の現場で培ってきた精密な歯科技工技術と、トップアスリートの協力のもと収集した実証データを基に、パフォーマンスを最大化する「究極のギア」としてのマウスガード"VIA"を開発。科学的根拠と職人技の融合で、アスリートの挑戦を口元から支える。
監修者
野見山 和貴 先生
IVY大分医療総合専門学校 学校長 / 日本スポーツ歯科医学会 認定マウスガードテクニカルインストラクター
スポーツ歯科医療の第一人者として、多くのアスリートの口腔ケアとパフォーマンス向上に貢献。本稿で紹介しているスポーツマウスガード「VIA」の監修も務める。
【インタビュー】スポーツ歯科の最前線から語る、VIAの真価 - 野見山和貴先生に訊く -
COI(利益相反)について
この記事は、オーダーメイド・スポーツマウスガード「VIA」を開発・提供する株式会社成田デンタルによって制作されました。記事の内容は、公的機関や学術論文など、独立した第三者の情報源に基づいていますが、執筆者は自社製品の開発・販売に関与しています。私たちは、アスリートの安全と健康を最優先に考え、科学的根拠に基づいた正確で公平な情報提供に努めることを編集方針としています。